よく飛ぶ 紙飛行機への道

【第14回】ホワイトウイングス版競技用機について①

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ホワイトウイングス版の競技用機

以前、「第5回 レーサー スカイカブとその派生機の研究」、「第6回 二宮式 競技用紙飛行機の形態学的サクセション」と題して、二宮式競技用紙飛行機について述べた。

今回は「ホワイトウイングス版の競技用機」というカテゴリーについて考察を進めてみたい。と言うのも、子供の科学版の連載内容を一覧化しようという試みは、本稿より先に発表されている例があるのだが、ホワイトウイングス版についての形態学的解析は先例を見ないからである。

今、語らねば、数あるホワイトウイングス版Racerの名機群が、歴史の彼方に埋もれてしまいかねない。それでは「Racer」の名を冠したホワイトウイングスの全貌に少しでも迫るべく、筆を進めてみよう。

Racer 501~507

ホワイトウイングスの競技用機には、おそらく発売順(商品開発順?)であろう3桁の数字(例:Racer 590)が付与されている。100の位の「5」は、競技用機(Racer)であることを示している。

シリーズ最初の15機セット「二宮康明の紙飛行機 Vol.1」には、連番で501~507の7機種が含まれ、これらは皆、古典的な「全紙製の金属フック装備機」である。なお、機種におもりを要するものと不要のものが混在している。

 Racer 501 Familiar :妖精(矩形テーパー翼の普通型機 おもり不要)
 Racer 502 Cirrus :絹雲 (楕円テーパー翼の普通型機)
 Racer 503 Elliptic :(楕円テーパー翼機 おもり不要)
 Racer 504 Dolphin :イルカ(下付き垂直尾翼)
 Racer 505 Hi-Wing :(翼端上半角の高翼機)
 Racer 506 White Panther :白豹(翼端上半角 下付き垂直尾翼)
 Racer 507 Grace :女神(翼端上半角 普通型尾翼 おもり不要)
(※2019年8月27日追記:なお、上記の7機種は、英語版 Vol.7 Pioneer of Flight 15機セットにて、15機セットまるごと金属フックを廃し、紙フックの切り抜き型紙に改修されている。)

Racer 508~511

続く508~511の4機は「バルサシリーズVol.1」8機セットに含まれ、金属フック装備は共通だが、より組み立てが容易なバルサ板胴機であるところが対照的である。508以外は機体の愛称が記されていない。
(※2019年8月31日更新:初期のバルサ胴6機セットでは509~511の愛称が記載されていたので下に追記した。またRacer 508は後に金属フックを廃しバルサフックとする改修がなされ、Racer 508A Sky CubⅡとして”バルサタイプ競技用機3機種セット”または単品売りにて発売された。)

 Racer 508 Sky Cub :スカイカブ(矩形テーパー翼 普通型尾翼)
 Racer 509 Falcon:ファルコン(テーパーMOST翼1段上反角 下付き垂直尾翼)
 Racer 510 Twin Comet:ツインコメット(楕円MOST翼1段上反角 双垂直尾翼)
 Racer 511 Cosmos:コスモス(楕円翼2段上反角 普通型尾翼)

Racer 512~518、Racer 527~530

15機セットの第2弾「二宮康明の紙飛行機 Vol.2」と「バルサシリーズVol.2」も上記Vol.1と同様の関係で、前者は 全紙製金属フックの512~518、後者はバルサ板胴金属フックの527~530を含む。また、高性能な主翼型のMOST翼が登場する。
(※2019年9月14日追記:英語版での機体の愛称を追記した。)

二宮康明の紙飛行機 Vol.2
 Racer 512 Finch :ヒワ(楕円型MOST翼1段上反角 普通型尾翼)
 Racer 513 Meadowlark :マキバドリ(楕円型MOST翼1段上反角 普通型尾翼)
 Racer 514 GooseまたはSpruce Goose(矩形MOST翼1段上反角 普通型尾翼)
 Racer 515 Cumulus :積雲またはRobin(矩形MOST翼1段上反角 普通型尾翼)
 Racer 516 Mockingbird(翼端上反角 下付き垂直尾翼)
 Racer 517 Nimbus :乱雲またはPtarmigan(矩形MOST翼1段上反角 T尾翼)
 Racer 518 Cardinal(楕円型MOST翼2段上反角 普通型尾翼)

バルサシリーズVol.2 (プレカットはバルサ胴のみ、型紙はハサミを要する)
 Racer 527 Sky Fish :スカイフィッシュ(スカイカブの下つき垂直尾翼型 金属フック)
 Racer 528 (矩形テーパー翼 金属フック 鉛おもり)
 Racer 529 (翼端上半角 金属フック 鉛おもり)
 Racer 530 (後退翼と双垂直尾翼の垂直上昇型 金属フック 鉛おもり)

このように、ホワイトウイングスは全紙製とバルサ板胴の同時展開で始まったと言える。全紙製機セットは上級者用、バルサ板胴機セットは入門者用という位置づけである。
また、Racer 530は、後に改良型のRacer 530s として発売されたことも付記しておく。 垂直上昇型のRacer 530sは、2013年現在も入手可能である。
(※2019年8月29日追記:Racer 527 は “バルサタイプ競技用機3機種セット” および ”バルサ6機種セット滞空競技用機Ⅰ”において、金属フックを廃止したバルサフックのRacer 527 Sky Fish Ⅱに改修されている。)

Racer 519~526

さて、ここまでの話ではRacer 519~526を跳ばしているのだが、519~526は工作の簡易化と安全性の向上のために金属フックが廃止された、紙フックの機体である。

519~523は「HERITAGE SERIES(15機セットVol.3英語版)」に、15機セット初の紙フック機として含まれる。
 Racer 519 Pappy:パピー(矩形テーパー翼1段上反角 普通型尾翼の入門機)
 Racer 520 Amelia:アメリア(楕円テーパー翼1段上反角 普通型尾翼の基本的な機体)
 Racer 521 Jacqueline:ジャクリーン(楕円型MOST翼1段上反角 下付き垂直尾翼)
 Racer 522 Rcihard:リチャード(楕円型MOST翼2段上反角 下付き垂直尾翼)
 Racer 523 Billy :ビリー(楕円型MOST翼1段上反角 双垂直尾翼)

524~526は4番目の15機セットである「英語版 Vol.4 未来の飛行機シリーズ」に含まれている。下記の3機種はおもり不要である
 Racer 524 Blue Jay :アオカケス(矩形テーパー翼 普通型尾翼)
 Racer 525 Sparrow :スズメ(楕円テーパー翼 下付き垂直尾翼)
 Racer 526 Kingfisher :カワセミ (後退角主翼・双垂直尾翼の垂直上昇型)

なぜ紙フックの519~526が、金属フックの機体群(501~518、527~530)に挟まれているのか?

筆者の推測であるが、紙フックの機体開発は、型紙に印刷する描線を変更するだけで済む。それに比べてバルサフック胴の商品開発には、その形状に合わせた裁断 用の金型(刃)の準備が必要であり、印刷原版の作成よりは時間とコストがかかるハズだ。開発が容易な紙フック機が発売された後も、金属フックバルサ胴の併売が続いたのは、そのような事情ではないだろうか?
(※2019年8月28日追記:後期の競技用機の金属フックについては、機首の上下幅を細く整えるために、あえて採用されている可能性も指摘しておく。例:Racer 530s、541s)

まぼろしの? Racer 531

「Racer 531 Pheasant:エリマキライチョウ」は、楕円テーパー翼、普通型尾翼の金属フックバルサ板胴機であり、競技用機初のプレカット型紙の機体で、 「White Wings Excellent Gliders Pre-cut Volume 1」に含まれている機体である。
(※2019年9月15日追記:531が初の、と書いたが、これは500番台の機体番号で「発売最初期の型紙」を並べた際に言えることである。厳密には531が最初からプレカット型紙であった初の競技用機であると言うべきであろう。本セットの531の著作権表示は©1992であり、この6機セットには©1982でプレカットに改訂された508スカイカブも同梱されているので、最初のプレカット競技用機は508スカイカブと考えることも可能である。ただしこのセットの外箱には©1990と表示されており、混乱する。)

筆者はこの機体を秋葉原の十字屋で、ばら売り状態で入手した。ところがこの6機セットは、正式に国内流通した形跡が認められないのである。
ハサミで切り抜いて製作する初期のホワイトウイングスが国内販売された後、米国でも英語版が発売されたのだが、切抜き等の工程が煩雑(困難)であるという評価を受けたという。
ハサミの要らないプレカット型紙は、この米国人の評価に応えるべく、米国市場拡大を目的に開発されたものであったろう。するとこのRacer 531は、唯一、日本国内で販売されなかった最初期のプレカット型紙Racerということになるのだが、真偽の程はいかがだろうか?

また、この機体が金属フック装備バルサ胴機であることは、 金属フックの廃止で安全性を高める処置と、より組み立てを簡易化するプレカット型紙開発の時間的関係が暗示される。そういう意味でRacer 531は過渡期の機体として実に興味深い。Pheasantの名も良いが、いっそ「Archaeopteryx:始祖鳥」と呼びたい。

なお、Racer520のように、最初に発売されたセットではハサミが必要な型紙であったものが、のちに他のセットや単品で再発売された折に、プレカット型 紙に変更された機体がかなりあるようだ(例:Racer 508,Racer 520)。本稿では最初に発売されたときの仕様を、可能な限り実物で確認して論じている。(次回、第15回に続く)

(参考:日本紙飛行機協会ホームページ、誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」、AG社発売のホワイトウイングス)