よく飛ぶ 紙飛行機への道

【第7回】二宮式紙飛行機 特徴的な機体について

よく飛ぶ 紙飛行機への道

印象に残る形態

今回は、二宮式 紙飛行機における特徴的、特異的な形態の機体について紹介したい。

ハンググライダー

印象に残る機体として、最初に「N-263 ハング・グライダー」をあげておこう。子供の科学1974年7月号に掲載された機体である。
本機はパイプ状の三角胴を採用し、長方形の細い主翼と、V尾翼を備えた機体で、人間が飛ぶロガロ翼の実物と形状はかけ離れてはいる。しかし、機に小学生くらいの少年を模した紙の人形が、別パーツとして本当にぶら下がっているのが面白い。

ハ ング・グライダーを名乗る機体は、さすがにこの1機種かと思いきや、子供の科学2003年1月号に掲載された全紙製機「N-1471リリエンタールのハン グ・グライダー」と、ホワイトウイングス版マイルストーン Vol.1に含まれるバルサ胴の「Lilienthal」は、プロフィール機のグライダーに、かの飛行家リリエンタール氏が本当にぶら下がっているのである。
(※2019年8月9日追記:本稿執筆後、子供の科学2014年9月号に棒胴機としてN-2680リリエンタールのハング・グライダー型の紙飛行機が掲載された。)

複葉飛行艇 (※2019年9月25日追記)

次にあげるのは、子供の科学別冊よく飛ぶ紙飛行機第2集の表紙を飾り、28番目に型紙が掲載された機体である。

筆者が子供の頃、二宮先生の「切りぬく本」をはじめて下町の小さな本屋で見たのは、多分この本だったと記憶する。筆者はこの表紙を見て驚いたのだ。「え?これが紙飛行機?なんて美しいのだろう」と。それが率直な感想で、強く印象に残ったのだ。水面に浮かび、水上を滑走して舞い上がる「飛行艇」とはこういう形なのだと、紙飛行機として見事に記号化された胴体のデザインと、紙の支柱で支えられた複葉の主翼が創り出すシルエットが何とも印象深い美しさなのだ。ゴム射出用のフックが機首に無いことも、その水上機らしいシルエットの徹底に一役買っている。実機なら主翼下左右にあるフロートが省略されていることで、より一層スッキリとデザインが完成されている。

本機は「重心位置が高く宙返りしやすいので、斜めに傾けて水平に投げるときれいに旋回する」と説明が付されているが、実際その旋回飛行する姿は、まるで公園の草地が一瞬、本当に水面になったかのように思わせてくれた。数十年を経た筆者は今でも、この複葉飛行艇の虜である。

唯一無二の 宇宙基地

二宮式紙飛行機の作品群の中で、もっとも異彩を放つものといえば、「子供の科学別冊 よく飛ぶ紙飛行機集(第1集)」の44番目に収録された「宇宙基地」であろう。
紙飛行機として何が奇抜かというと、何しろ「紙飛行機ではない」のだから。

これは、要するに紙製の竹とんぼである。「宇宙基地」と称する所以は、鉛筆がゆるく差し込める紙製のパイプの周りに四枚の回転翼が配され、外周を紙のリング が囲んだ形からきている。中央の胴体にタコ糸を巻きつけ、鉛筆を持ったまま糸を強く引くと、10メートル程も上空に舞い上がるというものだ。

ヘリ コプターなり、リング状の回転翼のみの形状なり、プラスチック製のこの手の安い玩具は今でも市販されてはいる。しかし、同様のものを紙で自作できるという 所に、この宇宙基地特有の喜びがあったと思う。実際、上空に舞い上がる白い円盤体は神秘的にも見えた。

最初期の別冊から、このような「逸脱した機体」が収 録されているのも、「よく飛ぶ紙飛行機集」の特色と言えるだろう。より高性能を追求するだけでなく、時には理屈抜きに楽しいものでなければと、二宮先生は お考えになったのだろうか?

空飛ぶ自動車

  • ① 初号機
    子供の科学別冊よく飛ぶ紙飛 行機第2集(1973年)の21番目には「空飛ぶ自動車 (無尾翼型)」が掲載されている。通常ならば、紙製胴体に自動車らしく窓やタイヤをプリント し、横から見れば翼のついた自動車に見える。
    というものを想像するであろう。しかし本機ではまず、流線型の小型自動車ボディを模した側面形の胴体に、前後 に紙パイプを平行に取り付け、竹ヒゴを軸とした四輪紙タイヤを付けた、転がし走行の紙製ミニカーを製作し、そこに車体と比較して大型に見える無尾翼機型の 主翼を輪ゴムで取り付けるという、大変凝った楽しい形状の機体なのである。
    おまけに飛行の為のエンジンを模した紙製プロペラまで装備されているのだ。

    第2集は28機種が収録されているが、この「切り抜く本」を開いた子供たちは、たちまち本機に目を奪われたことだろう。 筆者も、はじめてこの機体の型紙を見たときの、胸のときめきを記憶している。

    しかし、無尾翼機というものは、尾翼の欠如を補うために主翼に大きな後退角が必要である。この大きな後退角の場合、翼端の気流が乱れて翼から剥がれてしまう 翼端失速が起こりやすい。この翼端失速は左右の翼で均等に起こるわけではない(空気の状態は一様ではなく、紙飛行機も100%完全に左右対称には作れな い)ため、結果、無尾翼機はキリモミして墜落しやすい機体と言うことになる。そこにデットウエイトで空気抵抗を増す車軸や車輪が付いているのだ。

    初代の空 飛ぶ自動車は、紙飛行機としての飛ばしやすさは望めないものだったせいか、単行本版の第2集では削除されてしまった。
  • ② 空飛ぶ自動車 復活。
    子供の科学別冊 よく飛ぶ紙飛行機 第3集(1975年)の18番目には、大型の双垂直尾翼と水平尾翼を、双胴式のブームで主翼の後上部に搭載し、飛ばしやすく改設計し た「空飛ぶ自動車マークⅡ(N-214)」が掲載され、復活を果たしている。

    実際、「四輪の紙製胴体」に、中央胴体を欠いた「主翼と尾翼の複合体」を合体 させるのはとても楽しいものだし、やや四角味を帯びた鼻面の自動車らしいデザインは、翼を取り外しても、第2集版の初代より、ずっと自動車らしく見えた。

    また、水平尾翼、垂直尾翼が配されたため、主翼の後退角は不要で、ほぼ長方形の細長い主翼となり、翼端失速の心配も解消された。正に、マークⅡの面目躍如である。
  • ③ ホワイトウイングス版 空飛ぶ自動車
    ホワイトウイングス版では英語版 Vol.8 軽飛行機シリーズにLight Plane 320 Sky Car (空飛ぶ自動車)が収録されている。

    その車体はマークⅡより流線型が強調されており、これが事実上の「空飛ぶ自動車マークⅢ」にあたるが、工作法、飛行性能については、マークⅡと大きな差は無いものと思われる。
    (※2019年8月9日追記:仙台市科学館に寄贈された機体から、本機の機体番号はN-1392と思われる。)

①~③のいずれも翼の着脱で遊べて、眺めて楽しい機体であるが、これ以降、この形式の機体は発表されていない。このような奇抜な紙飛行機は、もう出現することは無いのだろうか? 私は紙製の「空飛ぶ自動車」を愛している。

いつの日か、久しぶりの「新車」が発表されることを、私は今でも心待ちにしているのである。

(参考:日本紙飛行機協会ホームページ、誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」および雑誌「子供の科学」、AG社発売のホワイトウイングス)