よく飛ぶ 紙飛行機への道

【第1回】 紙飛行機の父 二宮康明先生

よく飛ぶ 紙飛行機への道

はじめに

本稿は、二宮康明氏の製作した紙飛行機達について、考察をすすめるのが目的である。
二宮康明氏は1926年宮城県仙台市生まれ。1951年東北大学工学部通信工学科、工学博士、日本紙飛行機協会会長、日本インダストリアルデザイナー協会会員、自家用飛行機操縦士。

1967年国際紙飛行機第1回大会に参加、滞空時間で第1位となり国際的に注目を集めたことで、誠文堂新光社の雑誌「子供の科学」での「切りぬく実物大紙飛行機」の連載が始まった。更に1970年オハイオ州コロンバスでの紙飛行機大会では、そのインダストリアルデザインの概念をとり入れたデザインに対し、オリジナリティ賞を受賞した。

紙飛行機とは何か?

紙飛行機といえば、伝承されている各種の「折紙飛行機」を思い浮かべる場合が多いだろうが、紙飛行機には次のような基本分類がある。

  • 1)おりがみ飛行機:正方形、または長方形の紙を折るだけで製作するもの。原則として切る、貼る、という加工はしない。おりがみ飛行機作家としては、中村栄志氏が大変有名で、1970年代から2006年にかけて多数の折り方を整理・開発・発表し、出版されている。
  • 2)切り折飛行機:用紙を折って仕上げるが、切る加工も行うもの。
  • 3)切り紙飛行機:用紙から複数の部品を切りぬき、接着して組み立てるもの。

上述の中村栄志氏のように、紙飛行機の世界にも、「作家」と言うべき著名人がいるのである。その中で、二宮康明氏は、切り紙飛行機の国際的大家ということになる。

紙飛行機作家達

たかが紙飛行機、と思われるだろうが、作品群にその作家の名を冠して呼ぶ場合が何例かある。その具体例をあげれば、以下のようになる。

  • 1)長澤式: 戦前から戦後にかけて活躍した長澤義男氏の切り紙飛行機群。時代の制約から「不要なハガキ」を材料に推奨しているのが特徴。帯状の紙を巻き込んだおもりを、二つ折りの胴体で挟み込むように接着するのが基本。長澤氏は1917年、東京都生まれ。長澤式紙飛行機は3000機以上設計・製作されたといわれている。
  • 2)吉田式: 二宮氏と一時連載をともにした、吉田辰男氏の切り折紙飛行機を指す。はさみで主翼前後の切れ目を入れ、機首は折り込んでおもりとし、胴体正中線と左右の尾翼を(前から見て)M型に折り曲げて完成する。接着剤が基本的に不要なのも特徴。また、ユニークなマーキングとネーミングのものが多い。後に二宮氏も、「ホチキスペグ」としてオマージュしている。他に二宮式に近い切り紙飛行機も多数製作している。

    吉田氏は1928年、横浜生まれ。1967年、アメリカで行われた第1回国際紙飛行機大会で入賞。1973年には「子供の科学」に連載開始(二宮氏と同時掲載または交代のかたち)。1985年にはアメリカで行われた第2回国際紙飛行機大会で念願の優勝をした。
  • 二宮式: 言うまでも無く二宮康明氏の切り紙飛行機作品。材料を上質のケント紙とし、板状の胴体を、切り抜いた部品の接着による積層(積み重ね)で構成するのが特徴。製作機数は未発表の機体を含めると2016年で3000機を越えるが、二宮氏のインダストリアルデザインのセンスが反映されているためか、そのどれもが、ひと目で「二宮氏のデザイン」とみてとれる一貫性が感じ取れ、他者の作品とは区別できるのが不思議である。また、現在出版等で流通している競技用切り紙飛行機のほとんどすべては、この二宮式をルーツとすると言える。

二宮式紙飛行機とは?

  • 1)雑誌 子供の科学版 「よく飛ぶ紙飛行機」
    国際大会優勝により誠文堂新光社から依頼を受け、雑誌「子供の科学」の切りぬく実物大紙飛行機連載は1967年9月号「トレーナー」から開始された。
    (※2019年8月9日追記:1967年8月号増刊で、連載に先がけてプロフィール機の設計法の記事が掲載されており、そのまま切り抜きできる物ではないものの、零戦とYS-11の縮小版型紙が設計例として掲載されている。)

    二宮氏は、最初は一年程度で終わるつもりだったと回想されているが、実際には大変な好評となり、驚くべきことに2016年9月号までの49年間連載は続けられた。ただしその間、吉田辰男氏が連載に参加した時期もあり、両氏交代、または同時掲載と、二宮式紙飛行機が必ず毎月掲載されていたわけではない。
    (※2019年8月27日追記:なぜ二宮式紙飛行機がこれ程までの好評を得たのか?筆者は他の著者による紙飛行機も収集し、入手が困難なものは国立国会図書館でも調査を行ったので、あえて私見を述べると、他の媒体の紙飛行機が大抵派手な色彩や人気キャラクタ一が印刷されているのと異なり、二宮式紙飛行機の白い紙を生かした、どこか孤高を感じさせるデザインが、世の子供たちに「これは何か違うぞ、ただの紙飛行機ではないぞ!」と感じさせたことも大きいのではないか。しかも複写の手間など無く、掲載されたページをそのまま切り抜いて製作出来るのである。そして実際に飛ばしてみれば、その性能は言うまでもない。他の製品が「30メートルも飛ぶ!」などと謳っていることもあるが、話にならない。一桁は違うのだから。)

    また2002年3月号のN-1896競技用機をもって引退宣言し、一旦は連載を打ち切ったが、2002年11月には連載を再開し、新作発表、新たな単行本発行が続いたのである。連載をもとにした別冊・単行本は実に35種にのぼり、49年間発表され続けた機体は実に多彩である。

    その内訳は「競技用機」が30%近くを占め、実機を模した「プロフィール機」が20%、独特な形状の「無尾翼機」や「変形機」があわせて20%程、「軽飛行機:(二宮氏独自のジャンル)」が15%程を占めている。(%は、筆者所蔵の約480機をサンプルとして算出)掲載されたのべ機数は、502機ほどになる。
    (2019年8月27日追記:二宮氏は子供の科学別冊に先がけてJapan Publications, USから、以下の英語版の紙飛行機型紙本も3冊発表されている。
     Jet-Age Jamboree. Complete Collection of Paper Airplanes (1968年)
     COLLECTION OF PAPER AIRPLANE PLANS (1968年)
     AIRBORNE ALL-STARS(1969年)
    掲載機はBeach Craft C-17、Two-engine Passenger Plane、BEAGLE 121 "Pup"の3機種を除いては、すべて子供の科学版と共通するようだ。またこの英語版は、ほとんどの型紙が両面印刷であり、複写を要するものであった。コピー機の普及がまだまだで、パソコンが存在しない時代を考えると、この本から複写して紙飛行機を作るのは敷居が高かったと言うしかない。)
  • 2)ホワイトウイングス
    1980年には模型店・玩具店向けのシリーズとしてホワイトウイングスが発売された。その名が、ケント紙の白い翼から名づけられたのは容易に想像できる。初期はB5版の箱入りが基本であったが、2010年にはコストダウンのため外箱を省略した簡易包装となっている。初期の製品は子供の科学版と同様の型紙に鉛おもり、金属フック、ゴムカタパルトをセットしたものであったが、現在のホワイトウイングスは打ち抜き済み型紙とカット済みバルサ胴の製品が主流である。
    (※2019年8月9日追記:なお、バルサ胴は軽量で狂いが起こりにくく、紙飛行機の胴体として最適であると、二宮先生は子供の科学連載開始前(学生のころ)からお考えだったようだ。子供の科学の雑誌連載では全紙製機が前提であり、バルサ胴のゲージとする型紙を添付したところで、ハサミで切り抜ける紙と比較して年少者にはかえって製作が難しくなり、かつバルサは高価であった。プレカットバルサ胴の添付が可能な商品形態であるホワイトウイングスでは、全紙製機より製作が容易な機体が実現できるため、ついに商品化された経緯があったようだ。実際ホワイトウイングスは紙飛行機という物の可能性を探る舞台でもあったようで、防水目的のスチレンペーパーなど、紙以外の素材も積極的に導入された。
    また二宮先生は日本航空宇宙学会において、紙飛行機についての多彩な発表をされている。その発表内容はプレカット型紙裁断時の切断部の曲がりの影響など、商品としての製造工程にまでおよび、そのような幅広い検討を発表した業績は、紙飛行機作家として他に例を見ない、特筆すべきものであろう。)


    ホワイトウイングス発売元の経営陣が2010年に交代するにともない、ホワイトウイングスの取り扱いは中止となった。ところが同年、二宮氏は「AOZORA(あおぞら)」を立ち上げ、ホワイトウイングスは継続販売されている。2011年3月13日には、最新型のRacer590が秋葉原の販売店で店頭発売された。ものすごい根性である。
    (※2019年9月3日以下追記:ホワイトウイングスは一般市販品の他、企業のノベリティ等特注品やカラーpdfファイル公開も加えると、330機種ほどが発表されている。なお、進研ゼミ小学講座特注品のスーパーウイングスは、ホワイトウイングスのプレカット部品をカラー印刷とした5機種であり、ホワイトウイングスの一種と見なしてよいと考える。)
    3)明治製菓スーパー紙飛行機キャンデー
    2006年7月に食玩として発売されたもの。プレカット型紙は3機種のデザインにそれぞれ4種の異なるカラー印刷が施され、計12機種のどれかがキャンデーと同梱されていた。組み立てを簡易化する必要から、小型な機体の構造は「おりがみプラス」に近いものだった。おりがみプラスとは、操縦性(舵の効き具合)に難のある三角形のおりがみ飛行機の重心位置付近に「切り紙の主翼」を取り付け、飛行方向の調整が容易になるよう二宮先生が開発した紙飛行機である。

そしてこれから

筆者は子供の頃、二宮式紙飛行機をよく飛ばして遊んだ。あの頃遊んだグランドの風の匂いが今でも思い出される。私は紙飛行機を愛している。

その後も型紙集を手放す気にはなれず、1998年から私は子供の科学の購読を再開し、二宮式以外の紙飛行機も含めて、書店、古書店、ネット等で型紙の収集を続けている。集めた型紙の総数は3600機余り、二宮式の紙飛行機は858機種(機数ではない、機種である)を所蔵している。

また世に出た紙飛行機関連の書籍も198冊程収集した。今後もこれらのDATAを分析し、二宮式紙飛行機についての考察を進めていきたい(上記は2019年9月25日時点の収集数)
(※2019年9月25日追記:本稿の元となった資料である「よく飛ぶ紙飛行機リスト(本稿第9回に添付)」がその後、更新を繰り返し内容の充実を得たことから、今回本稿全体を見直し、追記修正を行った。最初の執筆時点での不明点が、その後明らかになったり、想像・予想していたことが誤りであった点が多々あるわけだが、読み辛いと指摘されることは承知で、最初の記述はできるだけ残して追記修正箇所がわかるように努めた。なぜなら筆者にとっては過去の無知や誤りもまた、「よく飛ぶ紙飛行機への道」の途上の、大切な出来事なのである。)

(参考文献:日本紙飛行機協会ホームページ
 中村栄志著 「超本格!おりがみ飛行機ベスト30」東京書店
 長澤義男著 「よく飛ぶ紙ヒコーキ名機集」 講談社+α文庫
 二宮康明著 誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」
 吉田辰男著 「やさしく作れてよく飛ぶ 5分でできるミニ紙飛行機集」誠文堂新光社
 吉田辰男著「室内から屋外までバラエティ紙飛行機集」誠文堂新光社
 吉田辰男著「ミニミニから競技用まで高性能紙飛行機集」誠文堂新光社)

    参考)二宮康明スカイスポーツシンポジウム論文リスト (※2019年9月1日追記)

  • 1.稲見彰久、二宮康明:紙飛行機の滞空記録について、日本航空宇宙学会:第3回スカイスポーツシンポジウム(1997年12月6日)(武蔵野中央公園における1年間の季節別時間帯別の紙飛行機の2分間以上の滞空統計)
  • 2.日本で生まれ育った高性能紙飛行機-スカイスポーツの原点-、第2回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号S-2(特別講演)、1996年
  • 3.実験用機材としての紙飛行機~その実例「非対称機」、第2回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号1A12、1996年
  • 4.紙飛行機のパイロン競技、第4回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号1A7、1998年
  • 5.デモンストレーション:子供に見せる飛行の原理、第5回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号1A5、1999年
  • 6.境界層隔離板つき無尾翼ペーパーグライダー、第6回スカイスポーツシンポジウム講演集講演番号1-3、2000年
  • 7.紙飛行機インストラクター競技、第7回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号2-8、2001年
  • 8.おりがみ+きりがみ飛行機の一案、第7回スカイスポーツシンポジウム講演集、演番号2-8、2001年
  • 9.無尾翼ペーバー・グライダー翼の平面形について、第8回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号1-7、2002年
  • 10.航空マイルストーン機のペーパー・フライングモデル、第9回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号2-11、2003年
  • 11.ステープラー使用の紙飛行機構造の一案、第10回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号1-3、2004年
  • 12.発泡プラスチック板を主材としたゴム射出グライダー、第11回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号2-8、2005年
  • 13.1mm厚発泡スチレン板を翼材としたゴム射出グライダー、第12回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号2-3、2006年
  • 14.ゴム射出1mm厚発泡スチレン翼機についての2,3の考察、第13回スカイスポーツシンポジウム講演集、講演番号1-2、2007年 (フラッターの影響、主翼ねじれ対策、背面飛行対策など)