よく飛ぶ 紙飛行機への道
【第4回】二宮式紙飛行機の構成部品、製作工程について
機首のおもり(バラスト)
機首に「鉛おもり」の埋め込みが必要な場合、別途調達する必要があり、機首への穴あけ作業も必要である。穴あけにははさみを使えず、カッターが必要で年少 者には負担となる。そこで初期の機体では、埋め込みを省略して機首にゼムクリップをつけることが提案されていた。中期以降の機体では、胴体部品の重量配分 により、おもり不要が主流になっている。おもりについては以下のように分類可能である。
- ① 紙巻おもり、またはガムテープ巻きつけ: 棒胴機で用いられている。
- ② ゼムクリップ: 2~3個を機首に取り付けて重心を確認する。簡単な方法だが、機首がクリップの弾力で少々ゆがむのが欠点。
- ③ 板なまり埋め込み: 古典的方法である。板なまりは釣具屋で入手可能である。
- ④ 金属ワッシャー埋め込み: 一部のホワイトウイングスでは、板なまりの代替として付属する。環境に配慮した結果であろう。
- ⑤ 板ゴムおもり: スチレンシリーズのシャークジェットには板ゴムおもりを埋め込むようになっている。TOBUTOBUプレーンにはゴムスポンジが付属している。
- ⑥ おもり不要: 最近の多くの機体はおもりによる調整は不要である。
先尾翼機はそのバランス上、おもりが不要なものが多いのだが、競技用機では子供の科学1979年7月号掲載の「N-411おもりのいらない小型競技用機」あたりから散見されるようになった。 プロフィール機では、初期におもりが必要だった機種が、最近は紙のバラストを再配置して、おもり不要となった改作が増えている。
とはいえ、 2010年12月に発表された新型の「ゼロ戦」では再び、鉛おもりの使用が指示されている。これは気まぐれな先祖がえりではなく、「異なる材質に触れ、自 分で製作工程、道具の使い方、材料を工夫すること(調達方法も含めて)」、「機体のデザインによっておもりの追加が必要になることを通じ、飛行機がバラン スを保って飛んでいることを理解すること」の重要さを考慮したと推測される。
平たく述べれば、「のりもハサミもおもりも不要!と便利になりすぎた現在、た まには頭も手も、もっと使わなければいけない」ということか。
ただし、どんなに製作が簡単な機体でも、しっかり調整がされていなければ、よく飛ばない。
カタパルト用フック
ゴムカタパルトを使用すると、紙飛行機を簡単に高初速で発進させることができる。連載第一回のトレーナーには、このフックは無かったが、すぐに連載4回目の初期の機体である1967年12月号掲載「超音速ジェット機 (LTV A7-Corsair Ⅱ)」から、針金製の金属フックを使用するようになった。
現在の全紙製機は機首にフックを一体化した「紙フック」が主流。1986年1月号掲載の「軽飛行機 (エアレーサー型) N-799」から導入された製作工程の簡便化と安全性を考慮したものだが、棒胴機では、その構造上現在も金属フックが主 流で、最近、爪楊枝の断片を機首に斜めに差し込む方法が提案されている。ちなみに金属フックは、ラジオペンチを使えばゼムクリップを材料にして(クリップ の曲線を生かして)簡単に製作できる。
なお、N-830やN-838のように、弓状の針金を機首に斜めに差し込むタイプの金属フックもある。
ホワイトウイングスのバルサ胴機でも、バルサ胴機首がフック状になっている「バルサフック」となっているが、初期の製品(Racer501やRacer508スカイカブ、Racer527スカイフィッシュなど)では、バルサ胴に金属フックを取り付けるものも存在する。バルサフックの導入はRacer 508A スカイカブⅡか、Racer 535 White Larkからのようだ。
MOSTウイング
紙製主翼の性能を向上するために、主翼にはキャンバー(揚力を得るための翼のふくらみ)をつけるのが通例であるが、同時に横安定確保のため、主翼には上反角が必要である。特に高性能を追及する競技用機においては主翼取付方法には次の問題がある。
- ① 胴体の主翼取付部が直線状である場合、キャンバーは翼端側には容易につけられるが、主翼中央部にはキャンバーをつけられない。二宮式紙飛行機にはこのタイプが多数あるが、工作自体は容易ではある。
- ② 主翼取付部をキャンバー状に曲線にすると、主翼中央から上反角はつけられない。この場合、翼端上反角をつけるという対策をすることになる。
- ③ N-78では、主翼中央部のキャンバーと翼端上反角を滑らかに両立するため、機体を組み立て後、翼端を火であぶって反らせるよう指示されていたが、実際には困難であり、危険である。
上記の問題を解決するために、曲線状の主翼取付部にフィットするよう左右に分割された主翼中央部品を、あらかじめ上反角とキャンバーをつけた状態で組み立て てから接着するのが「MOSTウイング:Modified Saddle Type(逆鞍型の意味)」である。子供の科学では1985年3月号に掲載されたMOST翼1段上反角の「N-750」、ホワイトウイングスでは 「Racer 509 Falcon ©1982」から導入された。
さらに同様の工程で翼端にも上反角を付けた2段上反角のMOSTウイングは、らせん上昇用競技用機として は理想の形であろう。しかしながら、製作工程は複雑となるので、その後もMOSTウイングではない競技用機は発表され続けている。
セミボックス型主翼(*以下2019年9月20日追記)
主翼部品と裏打ち部品の間にすき間を作って周辺のみ接着し、ごく薄い箱状構造とすることで、ねじれ強度を上げた主翼形式。接着剤乾燥後のキャンバー調整はできない。この主翼の採用例は、「子供の科学1994年8月号掲載の競技用機N-1352」、「ホワイトウイングスRacer 542」と、極めて例が少ない。
二宮式紙飛行機のインダストリアルデザイン
他の作者の作品が、もっぱらカラー印刷で発表され、機体に様々なパターン・模様が印刷されているのに対して、二宮式紙飛行機、特に競技用機は、無彩色の白い 紙を生かしたデザインで、そのままで美しく鑑賞に堪えるという事実は、二宮氏の紙飛行機集の表紙に印刷された、各機の写真を見るだけで明らかで、重要である。
一方で、二宮式紙飛行機には、独特な紙製のプロペラを装備するものもある。(例:モーターグライダー、双発飛行艇、複葉飛行艇)。無動力で、空気抵抗にはなるが、他の作者の機体には見られないアイデアである。
性能を追求した競技用機だけの連載では飽きられてしまったかもしれない、しかし多彩な作品群の中には、
「翼が取り外し式の空飛ぶ自動車」
「輪ゴムを使って実際に翼を折りたためる飛行艇」
「本当に紙製のパイロットがぶら下がっているハンググライダー」
「竹とんぼ式で回転上昇する宇宙基地」
「左右非対称機」
など、楽しい機体も含まれる。
このバリエーションに子供たちは熱狂したのだ。更に「二宮康明の変形機10機選」、「新選 二宮康明の紙飛行機集4」「新10機選6二宮康明の紙飛行機集 小型機・変形機」では、 特異な形の変形機がまとめて手に入るのである。合理的でシンプルな競技用機、そして時に遊び心があるデザイン。これもまた二宮式紙飛行機の特徴である。
(参考:日本紙飛行機協会ホームページ、誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」、AG社発売のホワイトウイングス)
- はじめに
- ①紙飛行機の父 二宮康明先生
- ②デザインと名称
- ③機種を分類してみる
- ④構成部品、製作工程について
- ⑤レーサー スカイカブとその派生機の研究
- ⑥形態学的サクセション
- ⑦特徴的な機体について
- ⑧棒胴機、いわゆる割りばし飛行機について
- ⑨資料編 紙飛行機図書館
- ⑩紙飛行機の保管法について
- ⑪連載バックナンバー調査
- ⑫日本紙飛行機協会 訪問記
- ⑬Light Plane 321 V-Tailの謎
- ⑭ホワイトウイングス版競技用機について①
- ⑮ホワイトウイングス版競技用機について②
- ⑯ホワイトウイングス版 軽飛行機について
- ⑰よく飛ぶ紙飛行機の力について
-
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