よく飛ぶ 紙飛行機への道

【第6回】二宮式 競技用紙飛行機の形態学的サクセション

よく飛ぶ 紙飛行機への道

競技用紙飛行機とは何か?

今回は、二宮式 競技用紙飛行機の変遷について、主に1970年代に注目して考察していきたい。

競技用紙飛行機とは何かを論ずるならば、それは「紙飛行機で何を競うか」をあげていけば良い。GAMEとして考えれば、多様な競技が考えられるが、もっとも一般的、代表的なのは、「滞空時間を競う」ことだと考えられる。
そのような競技に使われる紙飛行機は勿論、
①無駄な空気抵抗を避け
②高い効率の揚力の翼を持ち(飛行機を持ち上げる空力学的な力)
③適切な横安定、縦安定の性能を持つ設計でなければならない。

初期の二宮式 競技用機

さて、上記の条件を満たすため、紙飛行機をイメージするとしたら、おそらく長時間の滑空をするために設計された、実機のグライダーを参考にするのが王道であろう。

二宮先生もそのように考えられたようだ。子供の科学1967年9月号に連載第一回目として掲載された「実物大切りぬき紙飛行機 トレーナー」は、競技用機 とは名付けられてないものの、正に実機のグライダーを模した直線的デザインの競技用機に見える。通常の1枚の垂直尾翼、水平尾翼を持ち、直線で構成された 1段上反角のテーパー翼(先端に向かって細くなる翼)を供えている。

また、機種にプリントされたキャノピーのデザインが、実機グライダーを彷彿とさせるも のになっている。

ただし、実機のグライダーの主翼が、ほぼ中翼式であるのに比較して、このトレーナーでは、工作が容易で高い横安定を得られる「高翼式」を 採用している。さらに、工作を容易にするため、おもりにはゼムクリップの使用が推奨されている。

本機については、後年の設計番号N-2000番台を知ってしまっている今の眼には、直線的なデザインが、さすがにどこか垢抜けないと言えなくもない。強いて言えば、かつて玩具として販売されていた、経木グライダーの全紙製版というイメージである。

なお、当時は現在のようなパソコンは存在しないため、型紙の図面は、明らかに手書きで起こされていることが見て取れ、味わい深いものである。

さ て、本機はN-ナンバーが不明であるため、国際競技で特賞をとった競技用機N-78(より洗練されたデザインで、スマートな翼端上反角を持つ)より古い設 計なのか、新しいのかは、残念ながら分からない。トレーナーに代表される直線的なデザインの機体は、N-232競技用機あたりまで散見され、N-300番 代になると見られなくなる。

単行本では、初期の第3集までがそれにあたる。その後、70年代には、高翼式の主翼を基本として、様々な主翼型、尾翼型が発表 されている。簡単に例を挙げれば、1段上反角の主翼では楕円翼、前進翼、通常のテーパー翼、翼端上反角などの他に、2段上反角の楕円翼も発表されている。

また、尾翼は、通常型のほかに、双垂直尾翼、T尾翼、下付き垂直尾翼など、多様に展開されていく。これらの主翼、尾翼の基本形が組み合わされて、多様な競 技用機が出揃ったのが70年代である。

なお、二宮氏がイランに滞在した当時、視界没を記録したN-345競技用機は、子供の科学1978年9月号で発表さ れている。

曲線デザインの導入

時代的には上記と重複するのだが、今度は競技用機胴 体の側面形に注目してみよう。最初期の機体では、胴体上縁、下縁のラインが直線的であったわけだが、ここに次第に曲線が取り入れられていく。
実際には丸み を帯びた機首が、やや頭を下げるように湾曲し、胴体の下縁がえぐられているような独特なカーブを描くようになっていく。

もし垂直尾翼が下向きであれば、ま るで幼魚の胴体のような、かわいらしい曲線的デザインである。また、主翼の外形は、次第に角型から、楕円翼が主流となり、前進翼等の実験的機体は姿をひそ めて行く。

更にN-300番台中盤では、より高性能を狙って胴体の上下幅が小さく、細い胴体となり、二宮式競技用機の機首は、まるで新幹線のノーズが次第に長く伸びていくかのごとく、非常にシャープな印象へと変化していく。

実験的競技用機の時代

70年代には、上記のように多様な競技用機が公開されたが、見方を変えれば、競技用機の可能性を探る実験機の時代であったとも言えるだろう(紙飛行機が、気軽に実験的デザインを作成可能な飛行体であるのはモチロンだが)。以下に実例をあげてみよう

「N-281 2段上反角つき 競技用機」

翼 中央の上反角と大きな翼端上反角を組み合わせ、機体に高い横安定性を与えたものである。滞空時間を競うには、なるべく高く機体を上昇させる必要があるが、 大きな翼端上反角の機体は、かなり急角度で発進させても上昇の頂点で失速せず、クルリと水平に復帰して滑空に入るという傾向を持つ。

このような上反角の配 置は、細長いテーパー翼を持つ実物のグライダーではあり得ないものだ。二宮式競技用機には、他にもこの効果を狙った機体が複数存在する。

もっとも2012年現在では、滑らかならせん上昇を基本とする「2段上反角MOST翼」が、最高の解答と言える様だ。

「N-314 持ち運びに便利な競技用機」

78年に発表されている。直線的デザインの機体ではあるが、主翼と胴体が輪ゴムで留めてあり、運搬時には取り外せるというものである。唯一、この1機種のみ発表されているようだが、これこそ正に実験機であろう。

「N-363 V尾翼 競技用機」

競技用機の尾翼は、普通型、双垂直尾翼が主流で、これに下向き垂直尾翼が続くが、N-363はV尾翼を持っている、子供の科学誌上で発表された、おそらく唯 一の競技用機である。二宮式紙飛行機において筆者の調査した限りでは、V尾翼の機体自体、あわせて8機種しか確認されていない。

「N-? 前進角のついた主翼をもつ競技用機」

本機は「子供の科学別冊 よく飛ぶ紙飛行機 第2集」の10番目に掲載されているN-ナンバー不明の機体である。その名の通り、主翼がバンザイをするように前方に突き出ているのが特徴となる。

前進翼は、本物の機体では主翼の強度を増す必要があり、構造材の重量がかさむのでHFB-320 ハンザのような例があるだけで殆ど実用化されてはいないが、二宮式競技用機においても、他に「N-352前進角をもつだ円翼の競技用機」が確認できている 程度であり、その例は極めて少ない。

前進角は、上反角や後退角同様、機体の安定を増す働きがあるようだが、紙飛行機でどこまで再現できているのかは疑問で もある。だが、特異な形を眺めるのは楽しいものである。

以上のように、N-300番台で、二宮式競技用機の基本的な各タイプがほとんど出揃うことになる。この時代を、「カンブリア爆発の時代」と称したい。

「T-尾翼の競技用機」

T- 尾翼競技用機は、筆者の調査できた限りでは子供の科学版では8機種、ホワイトウイングス版では2機種、計10機種が確認できる。T-尾翼機は、飛行中に機 体に横揺れが起きやすい傾向があるようで、その点の改良に、二宮先生は長年取り組まれているようである。

子供の科学誌上で、設計番号からすると最新型は 2003年4月号の「N-1227 T尾翼の競技用機」であるが、掲載順で新しいのは2006年発行の「新選 二宮康明の紙飛行機集5」にはN-777Fが掲載されており、N-1227は 今のところ単行本収録されていない。80年代に開発を開始したN-777を6回も改修したN-777Fの実力とは、果たしてどのようなものであろうか?

N-400番代以降の競技用機 洗練の時代

「N- 411おもりのいらない小型競技用機」は、名前の通りおもりによる重心調整が不要な全紙製機で、以後、このようなおもり不要の機体が主流になっていく。ま た、MOST翼の開発も進んでいく。

1987年に発行された「二宮康明の競技用機10機選」に収録された2種の競技用機「N-830」と「N-838」は、金属フック式ではあるものの、細く シャープな胴体に2段上反角MOST翼を搭載した、競技用紙飛行機のひとつの理想形である。

その後、に金属フックに代わり紙フックが一般的となり、二宮式 競技用機は紙飛行機としてより作りやすく、より安全に、より美しく洗練され、やがて現在に至るのである。子供の科学2012年9月号には、連載45周年を 記念して、究極の競技用機の様式を体現したMOST翼の「2段上反角競技用機 N-2480」が掲載された。

また、ホワイトウイングスのバルサ胴機も同様の進化を遂げていった。本稿執筆時点では、ホワイトウイングス版 競技用機の最新型は、2011年発売の「Racer590」であり、これは2枚のバルサ板胴を張り合わせて補強した、手投げ用の大型競技用機である。

かのようにして、実物のグライダーを模したデザインからスタートした、二宮式競技用紙飛行機は、現在では紙飛行機として特化した、実用の飛行機ではあり得な い形態にまで変化したのである。そこには二宮先生の情熱が、その高い性能と、実物の飛行機には無い美しい姿に結実しているのである。

二宮式 競技用機を作って飛ばすだけでなく、時にはその美しい姿を是非じっくりと、鑑賞してみて頂きたい。

(参考:日本紙飛行機協会ホームページ、誠文堂新光社「よく飛ぶ紙飛行機集」および雑誌「子供の科学」、AG社発売のホワイトウイングス および筆者所蔵の競技用機型紙179機種)

2012年9月10日